フリッカ抑制装置(アクティブフィルタ)
電力は電力会社の変電所から配電線を通じて地域の需要家に供給されています。
一般に配電線を電流が流れると、配電線のインピーダンスによって電圧降下が発生するので、
電力会社はその地域の電力使用量に応じて、電圧降下を生じない太さの電線を配電線に使用しています。
しかし、一時的な工事などによって、同じ配電線から受電して大容量の負荷機器を動かすことで、
配電線に流れる電流が増大し、大きな電圧降下が発生します。負荷が頻繁に稼動停止を繰り返すようであれば、
それに合わせて電圧変動が近隣の需要家にまで波及し、フリッカ現象を引き起こすということになります。
実際に問題となる電力系統は、変電所から遠く配電線が細い山間部に多く、都市部では比較的問題とされません。
フリッカなどの対策が必要だと判断された場合は、
電力会社より対策のお願いをされることがあります(電気供給条件にもとづく要請)。
お客さまの電気の使用が、次の原因で他のお客さまの電気の使用を妨害し、もしくは妨害するおそれがある場合、または当社もしくは他の電気事業者の電気工作物に支障を及ぼし、もしくは支障を及ぼすおそれがある場合には、お客さまの負担で、必要な調整装置または保護装置を需要場所に施設するとともに、とくに必要がある場合には、供給設備を変更し、または専用供給設備を施設して、これにより電気を使用していただきます。
イ 負荷の特性によって各相間の負荷が著しく平衡を欠く場合
ロ 負荷の特性によって電圧または周波数が著しく変動する場合
ハ 負荷の特性によって波形に著しいひずみを生ずる場合
ニ 著しい高調波を発生する場合
ホ その他イ、ロ、ハまたはニに準ずる場合
参考 関西電力電気供給条件「29 電気の使用の伴うお客さまの協力」より抜粋
当社または電気設備専門の会社にご相談ください。
お客さまの需要場所における電源環境及び負荷機器の使用状況について調査し、
フリッカ・電圧変動の計算書作成ならびに対策のご提案をいたします。
フリッカ現象については、電力会社の電気供給条件にて、
問題の発生源である需要家側で対策することとなっていますので、受電開始前の検討が必要です。
主な手順は以下のようになります。
(1) フリッカ・電圧変動の計算書をもとに発生量を予測し、対策の要否を判断します
(2) 対策方法と対策に必要な容量を検討します
(3) 電力使用状況を盛り込んだ工事計画書を策定します
(4) 電力会社に受電を申請します
(5) 電力会社による電気供給方法の検討がなされフリッカなどの問題がないか検討します
(6) 問題の発生が予想される場合は、問題の解決をお願いされます
(7) 問題に対し必要な対策が施されていれば受電することができます
(8) 対策機器を導入し施設します
(9) 負荷機器の稼動を開始します
電力会社の変電所より、比較的遠距離にある家庭の照明がちらつくことがあります。
これは家庭への給電電圧が瞬間的に変化しているためです。このような現象をフリッカと呼び、電圧変動の中に含まれます。
実際にフリッカ・電圧変動の障害を受ける機器とその影響の種類を表に示します。
障害機器 | 影響の種類 |
誘導電動機 | 起動不能、トルク低下 |
蛍光灯、白熱灯、水銀灯 | ちらつき、消灯 |
コンピュータ | 誤動作、暴走、故障 |
家電機器 | 映像のちらつき、誤動作 |
電子機器 | 自動制御機械の誤動作 |
短時間に大きな負荷変動があるもの、また容量が大きくて起動と停止を繰り返すものがフリッカ・電圧変動の発生源となります。
この種の負荷設備の代表例を、トンネル工事・ダム建設工事に分けて下記に挙げます。
ロードヘッダ、ブームヘッダ、ドリルジャンボ、コンクリート吹付機、コントラファン
TBM(トンネルボーリングマシン)、シールドマシンなど。
ケーブルクレーン、クラッシャ、ジョークラッシャ、ロッドミル、電気炉、溶接機、コンプレッサなど。
フリッカの検討には次のような資料が必要です。
電力会社に問い合わせ、変電所から受電点までの%インピーダンス(10MVAベース)を教えてもらいます。
フリッカ対策のために必要である旨を伝えることにより提供してもらえます。
%インピーダンスは、変電所からの距離が遠いほどまた配電線が細いほど大きくなり、その値は受電点により大きく異なります。
対策では、フリッカ値・電圧変動を許容値以下に抑えることが必要ですが、
この許容値は受電点における配電線の状況などにより異なりますので、電力会社に問い合わせます。
既に電力会社にてフリッカの検討がなされ、対策が必要と判断された場合は、
対策のお願いの文書とフリッカの予測または実測資料が提出されます。
作業所に設備するすべての負荷を対象とします(電灯負荷を含む)。
主要な機器がフリッカの原因となることが予想される時は、メーカに問い合わせて、詳細な資料を取り寄せてください。
特に始動電流などの実測値があれば正確な予測計算ができますのでご提供ください。
作業所の負荷はすべてが同時に起動するわけではなく、各作業によって起動する負荷やその順番が工程として計画されています。
こうした細かな作業工程があれば、それに応じたフリッカ対策を行うことにより、より小容量で効果的な対策が可能となります。
対策機器の容量及び接続場所を検討するために、受電点から各負荷機器までの配電設備を表した結線図が必要です。
主な対策方式としては、コンデンサ制御方式、リアクトル制御方式、アクティブフィルタ方式があります。
下表にそれぞれの特徴をまとめています。
コンデンサ開閉方式 (従来方式) |
リアクトル制御方式 (従来方式) |
アクティブフィルタ方式 (新方式) |
|
動作原理 | |||
進相コンデンサを数バンクに分けて サイリスタで入切制御し、 進相の無効電力を段階的に流す。 |
分路リアクトルの位相制御を行い 容量を連続可変し、進相コンデンサと共に 総合的に無効電力を調整する。 |
電圧型インバータと 系統連系用リアクトルから成り、 遅相から進相の無効電力を調整する。 |
|
連続制御 | × | ○ | ○ |
応答速度 | △(0.1s) | ○(0.01s) | ◎(0.002s) |
不平衡補償 | × | ○ | ○ |
高調波発生 | なし | あり | なし |
必要容量 | △ | △ | ○ |
増設の可否 | △ | × | ○ |
設置面積 | 小 | 大 | 小 |
周波数共用 | × | × | ○ |
総合評価 | △ | ○ | ◎ |
多くの受変電設備では、力率改善のために高圧進相コンデンサ設備を導入しています。
下図のように、確かにコンデンサの発生する進相無効電力によって力率及び電圧降下を改善する事が可能ですが、
実際の電圧変動ΔVやフリッカ値ΔV10に対してはまったく効果はありません。
また、基準以上の電圧上昇を生じさせても電力会社の電圧維持装置によって基準電圧以下に調整されてしまいます。
大規模な設備では多数のコンデンサバンクを持ち、自動力率調整装置によって力率を常に1にするよう制御している事があります。
こうした自動力率調整装置は、フリッカの対策方法には有効ではないのでしょうか。
こちらも、答えは、残念ながら「有効ではない」です。
確かにフリッカ対策の本質は、進相無効電力を供給し受電点での力率を改善することによって系統の電圧降下を抑えることであり、
この点だけは上記の自動力率調整装置も当てはまっています。
しかしながら、自動力率調整装置の入切制御タイミングは、装置の性質上、速くても数分単位の制御であることから、
電圧変動・フリッカの電圧変動タイミングに追随して抑制することはできませんので、電圧変動・フリッカ対策機器とはなりません。
配電線に設置されるSVR(Step Voltage Regulator 自動電圧調整器)にて
フリッカ対策が可能か?というと、答えは「できない」ということになります。
表のように、SVRは機械的な接点を切り替えることで電圧を調整するため、
接点の寿命を考慮して応答時間を数十秒以上に設定しており、電圧変動に対する応答時間が遅く、数十~数百秒(図1を参照のこと)かかってしまいます。
更に、図2のように、大容量のモータ負荷の始動時や運転時の電圧変動は、数百ミリ秒~数秒の短時間の変動となります。
従って、SVRは定常的な負荷による緩やかな電圧変動に対しては効果を発揮し電圧調整を行うものの、
急峻な電圧変動(フリッカ)については効果がみられず、負荷起動時等のフリッカについては、
応答時間の速いフリッカ抑制装置でなければ抑制することができません。
SVRとフリッカ抑制装置の比較表
機器の種類 | 原理 | 応答時間 | 電圧制御 |
SVR | 単巻変圧器と電圧継電器を組合せ、 電圧変動に応じて単巻変圧器のタップを切り替える。 |
数十~数百秒 | (1)段階的制御 (2)設置点より下位の電圧のみ改善 |
フリッカ抑制装置 | 負荷変動に応じて無効電力を出力し、 配電線に流れる無効電力を減少させる。 |
2msec (アクティブフィルタ方式) |
(1)連続的制御 (2)設置点の前後の電圧を改善 |
矩形波状電圧変動等価換算係数といい、これらの係数を用いて対策必要、対策考慮、対策不要の判定を行います。
αAを用いて計算し、許容値を超過した場合はフリッカ対策を考慮、
αBを用いて対策要となった場合は、フリッカ対策が必要ということになります。
受電柱番号を調べ、所轄の電力会社にお問い合わせください。
直入、Y-Δ、リアクトル、コンドルファ、インバータ、二次抵抗、直流サイリスタがあります。
詳細は下記の資料をご覧ください。
直入れ始動 | 減 電 圧 始 動 | |||||
か ご 形 電 動 機 | 巻線形電動機 | |||||
Y-Δ始動 | リアクトル始動 | コンドルファ始動 | インバータ始動 | 2次抵抗始動 | ||
回路 構成 |
||||||
始動 電圧 |
V | 80%タップ → 0.8V 65%タップ → 0.65V 50%タップ → 0.5V |
80%タップ → 0.8V 65%タップ → 0.65V 50%タップ → 0.5V |
- | - | |
始動 電流 |
Is(※1) | 80%タップ → 0.8Is 65%タップ → 0.65Is 50%タップ → 0.5Is |
80%タップ → 0.82Is 65%タップ → 0.652Is 50%タップ → 0.52Is |
定格出力電流の150%以下にできる(インバータの過負荷電流定格以下) | 定格電流の150%程度 | |
(1)定格電流の6~7倍の始動電流が発生するので、大きな電源容量が必要 | (1)始動電流は小さい (2)始動電流(トルク)の調整不可 (3)全電圧に切り替え時、大きな突入電流が流れる場合がある(オープンデルタ) |
(1)始動用リアクトルのタップにより調整できる (2)コンドルファ始動に比べると始動電流が大きい |
(1)始動用変圧器のタップにより調整できる (2)減電圧始動の中では最も小さくできる |
(1)低速回転から起動させることにより制御できる | (1)二次抵抗により調整できる | |
始動 トルク |
τ | 80%タップ → 0.82τ 65%タップ → 0.652τ 50%タップ → 0.52τ |
80%タップ → 0.82τ 65%タップ → 0.652τ 50%タップ → 0.52τ |
- | - | |
(1)始動トルクが大きい | (1)トルクの増加が少なく、始動トルクが小さい。 | (1)円滑に加速できる (2)トルクの増加が大きい (3)始動電流を小さく制限するほど始動トルクは著しく小さくなる |
(1)始動電流を小さくしても始動トルクはそれほど小さくならない (2)トルクの増加がやや小さい |
(1)低周波数領域(30Hz以下)では、モーターの自冷ファンの効果が少なくなるため、連続で使用するには負荷トルクを低減する必要がある (2)商用電源運転の場合より小さくなる |
(1)負荷トルク特性にマッチした加速トルクを2次抵抗の積み方で調整でき、スムーズである | |
始動 時間 |
T | 3T | 80%タップ → T/0.82 65%タップ → T/0.652 50%タップ → T/0.52 |
80%タップ → T/0.82 65%タップ → T/0.652 50%タップ → T/0.52 |
- | - |
設備 費用 |
安価 | 普通 | やや高価 | やや高価 | やや高価 | 高価 |
適用 対象 |
(1)小容量電動機 | (1)無負荷始動・軽負荷始動できるものに限られる 例:中容量電動機 |
(1)Y-Δでは加速が困難なもの (2)始動時のショックを防ぎたい場合 例:大容量のポンプ・ファンなど |
(1)特に始動電流を制限したい場合 例:大容量のポンプ、ファン、ロードヘッダ、TBM |
(1)始動時のショックを防ぎたい場合(※2) 例:エレベータ、ベルトコンベヤ、TBM、シールドマシン、コントラファンなど |
(1)大容量電動機で始動電流を抑えたい場合 例:高圧モータ、クラッシャ |
※1.始動電流は、直入れ始動電流Isを基準として比較
※2.商用電源運転とインバータ運転とではモータの特性が異なりますので、始動回路選定の際には御検討願います。
淀川変圧器の製品情報です。フリッカ抑制装置(アクティブフィルタ)について紹介いたします。